大切な人を亡くして、悲しみに沈んでいる遺族に寄り添い、回復のサポートをするグリーフケア。自分はもちろん、周囲に必要な人がいつ現れるとも限りません。グリーフケアの正しい知識を学び、いざというときに備えておくと安心です。
この記事では、グリーフケアの意味や対象となる症状、回復までの流れなどを解説します。
目次
グリーフケアとは?簡単に言うと何?
グリーフケア(グリーフワーク)とは、簡単に言うと、死別の悲しみを抱える遺族をサポートすること。身近な人が亡くなったとき、悲嘆に暮れたり喪失感に苦しんだりしている遺族に寄り添い、悲しみから立ち直れるようにケアを行います。
死別による悲嘆(グリーフ)は、孤独感や絶望感、不安を引き起こします。また睡眠障害や食欲喪失、体力低下など、身体的な症状が現れたり、日常生活や行動パターンが変わったりする方も少なくありません。
グリーフケアを受けることによって、遺族は「ショック期」「喪失期」「閉じこもり期」「再生期」の4段階のプロセスを経て、少しずつ回復へ向かいます。
グリーフ(grief)の意味とは
「grief(グリーフ)」は、「悲嘆」や「深い悲しみ」を意味する英単語で、とくに愛する人と死別した際の悲しみを指しています。くわえて「悲嘆」は愛情を注いだり依存する対象と死別・別離した際に生じる反応のこと。
「grief(悲嘆)」を「care(世話)」することから名づけられたグリーフケアは、「遺族ケア」や「悲嘆ケア」とも呼ばれています。
グリーフケアの背景
現代は、死別の悲しみを抱える方に寄り添ってくれる人の存在が薄れています。
以前は、家族や地域社会の中で、自然と悲しみが癒されていく方がほとんどでした。ただ核家族化をはじめとする社会の変化によって、心の着ずを1人で抱え込んでしまう方が増えています。悲しみを共有できないと、感情をおさえこんでグリーフ(悲嘆)が長期にわたったり、周囲から孤立してしまったりする可能性が大きいです。
また、ときには自殺や事故、犯罪、災害、戦争などにより、突発的な死別を経験するかもしれません。ただでさえ辛い状況に複雑な問題が加わることで、1人でグリーフを乗り越えるのが難しくなり、「複雑な悲嘆」と呼ばれる病的な状態に陥ってしまう方もいます。
グリーフケアの歴史
グリーフケアは1960年代にアメリカではじまり、日本では1970年代から研究対象となりました。
グリーフケアの研究が開始されたのは、平均寿命が伸びて、死別や看取りを経験する機会が減ったことで、グリーフを共有したり癒したりする方法がわからない人が増えてきたから。また核家族化や非婚化が進み、よりグリーフを共有しにくい世の中になったため、グリーフを意識的に考える必要が生まれたと言えます。
グリーフケアが広く認知されるようになったきっかけは、2005年に起きた「福知山線脱線事故」です。突然の死で重いグリーフを抱える遺族の姿から、グリーフケアの必要性が高まり、2009年に「グリーフケア研究所」が設立されました。現在は上智大学を拠点に、グリーフケアの公開講座や人材養成などを行っています。
グリーフケアの基本的な考えと目標
グリーフケアの基本的な考え方は、グリーフ(悲嘆)の感情や行動を否定せず、受け入れること。
大切な人を失った悲しみは、心や体に影響を与えるほど大きな出来事です。精神的・肉体的な不調を抱えるのは正常な反応だと理解して、悲嘆を取り除かないようにします。ムリに感情をおさえ込んだり自分を奮い立たせたりすると、逆効果になりかねないので、注意してください。
またグリーフケアの目標は、遺族が死別の悲しみから立ち直ること。最終的には、死別の経験を通して人間的に成長したり、生きるエネルギーが湧いてきたりする状態が理想です。
グリーフケアの反応(症状)と対象者
大切な人を失った悲しみは、ストレッサーとなって身体や精神、行動、認知にさまざまな反応(症状)をもたらします。どのような反応(症状)のある方が対象となるのか、確認しておきましょう。
ちなみに、グリーフケアが必要になるグリーフ(悲嘆)の反応や症状の起きる時期は、人それぞれ。故人との関係性や亡くなり方、過去の経験などによって、悲嘆の大きさは変わります。また亡くなってすぐ反応がある人もいれば、数年後に突然症状が現れる人もいるため、注意してください。
身体的な反応(症状)
睡眠障害、摂食障害、呼吸障害、食欲喪失、体重減少、体力低下、筋力低下、免疫機能低下、疲労感、気力喪失、頭痛、肩こり、めまい、動悸、嘔吐、消化不良、便秘、下痢、血圧上昇、身体的違和感、身体的苦痛、白髪の増加、アルコール依存、薬物依存、自律神経失調症、反応性うつ病、故人と同じ症状が現れる など
精神的な反応(症状)
思慕の情、悲しみ、寂しさ、孤独感、絶望感、非現実感、憂鬱、不安、恐怖、怒り、敵意、やるせなさ、罪悪感、自責感、無力感感情の麻痺、自尊心の欠如、疑心、(故人の)幻覚 など
行動・認知的な反応(症状)
号泣、行動パターンの喪失、故人の模倣、ぼんやりする、引きこもる、落ち着きがなくなる、注意力が散漫になる、故人の所有物や思い出を避けたくなる、思考力の低下、判断力の低下、集中力の欠如 など
日本人に多い反応(症状)
- 思慕:故人を思い慕い、恋しいと思い出す感情
- 疎外感:自分は誰にも必要とされていないと感じる状態
- うつ的不調:意欲の低下や倦怠感など、うつ病のような症状
- 適応・対処の努力:自分を鼓舞して気力を奮い立たせる行動
日本人に多い代表的な反応(症状)は、「思慕」「疎外感」「うつ的不調」「適応・対処の努力」の4点。なかでも故人を思い慕い、恋しいと思い出す「思慕」の感情を引きずりやすいです。
4つの症状を並べてみると、死別を認められず、思慕の情を募らせたあと、疎外感やうつ的不調とあわせて喪失を乗り越え、立ち直るために適応していく流れがわかります。
グリーフケアの方法
こちらは、グリーフケアの代表的な方法。
グリーフケアの方法は明確に決まっていません。悲しみに暮れている心や、疲弊した体を癒す効果のある行動はすべてグリーフケア。枠に縛られず、自分に適した方法を探してみましょう。
自分の中にある悲しみを認める
グリーフケアで重要なのは、自分の中にある感情を肯定すること。
大切な人を失ったのですから、深い悲しみに暮れるのは当然です。故人がいなくなった悲しみや苦しみを、ムリに忘れようとしたりごまかしたりしなくて大丈夫。
自分の中にある感情と向き合い、認めてあげるだけで気分が軽くなるかもしれません。
故人への気持ちを吐き出す
故人への気持ちを吐き出すのも、悲しみを乗り越える手助けになります。悲しみだけでなく、不安や怒り、後悔など、自分の中にある感情を思い切り発散してみましょう。
家族や友達に話を聞いてもらったり、専門のカウンセラーや医師に頼ってもいいかもしれません。誰かに話すのが難しいのであれば、自分の感情を紙に書き出してみるのも有効です。
お別れセレモニーを開催する
通夜・葬儀・火葬の一連の流れは、故人が亡くなった現実を受け入れるための大切なプロセス。参列者と思い出を語ったり、遺体を火葬したり、収骨したりすることが、そのままグリーフケアにつながっています。
ただ実際の通夜・葬儀・火葬は、遺体の安置や金銭的な問題から、バタバタと終わってしまいがち。時間に余裕がなくて、故人への思いが整理できないまま終えてしまったなら、お別れセレモニーを開催するのもひとつの方法です。
一般的な葬儀より演出や食事、場所の自由度が高く、故人らしいセレモニーをあげられます。親しい人たちと故人を偲ぶことで、悲しみが癒えていくと評判です。
故人のお墓や遺品を心の拠り所にする
お墓や遺骨、お仏壇などを故人に見立てて、話しかけたり思いを吐き出したりすることで悲しみを和らげる方法もあります。
遺骨は、四十九日法要を過ぎた時点でお墓に納骨するのが一般的。ただ最近は、分骨して遺骨の一部を手元に保管する「手元供養」を選ぶ方も増えています。自宅に骨壺を置いたり、供養スペースを作ったり、アクセサリーにして身に着けたりすることで、常に故人を身近に感じられるのが魅力です。
グリーフケアの専門家に頼る
グリーフケア外来
死別の悲しみは病気ではありませんが、精神的な苦痛や肉体的な不調を伴います。統合失調症やうつ病を発症する可能性もあるため、辛いときはグリーフケアの専門家に頼ってみましょう。
グリーフケアは精神科や心療内科でも受けられますが、最近は「グリーフケア外来」や「遺族外来」のある病院が増えています。主な治療はカウンセリングで、症状によっては投薬治療もスムーズに受けられるので便利です。
グリーフケアアドバイザー
グリーフケアには、一般社団法人日本グリーフケア協会が認定する「グリーフケアアドバイザー」という資格があります。グリーフケアアドバイザーは、遺族の悲しみや喪失感をサポートする専門家。大切な人の死と向き合い、苦しみから解き放つための手助けをしてくれます。
病院や日本グリーフケア協会が開催する「悲嘆回復ワークショップ」に参加すると、グリーフケアアドバイザーによるケアを体験できます。
グリーフケアの会合に参加する
グリーフケアの一環として、自助グループや後援会、遺族会など、グリーフを抱えた人々の集まる会合が開催されています。自分と同じように、大切な人と死別してグリーフに苦しんでいる人と交流することで、気持ちが軽くなる方が多いです。
病院で遺族会を紹介してもらったり、インターネットで検索して会合を探したりして、グリーフケアの会合に参加してみましょう。
グリーフケアの本を読む
- 『はじめて学ぶグリーフケア』第2版(日本看護協会出版会)
- 『はじめて学ぶグリーフケア』(日本看護協会出版会)
- 『愛する人を亡くした方へのケア グリーフケアの実践』(日総研出版)
- 『家族を支え続けたい!ナースが寄り添う グリーフケア』(日本看護協会出版会)
- 『ながれるままに涙をながしましょう―愛する人を喪った悲しみを越えるために』(ソニーマガジンズ)
グリーフケアを実践したり体験したりする前に、書籍を読むのもオススメの方法です。
グリーフケアの内容や具体的な方法を把握しておくことで、行動するハードルが下がるかもしれません。書店やインターネットで、グリーフケアに関する本を探してみてください。
グリーフケアの流れ・プロセス
- ショック期
- 喪失期
- 閉じこもり期
- 再生期
故人と死別した遺族がたどるグリーフケアの流れ・プロセスは、「ショック期」「喪失期」「閉じこもり期」「再生期」の4段階。
この4段階のプロセスは、必ず順番に進んでいくとは限りません。また各プロセスを行ったり来たりして、回復と後退を繰り返しながら徐々に進行していきます。またグリーフワークの期間は、配偶者で1~2年、子どもで2~5年と言われてますが、個人差があります。
本人もケアする人も、時間がかかることを理解したうえで、焦らず立ち直っていくのが重要。故人の年齢や亡くなり方、関係性などによって、回復するまでの長さや道のりは異なると覚えておきましょう。
ショック期
まず最初に訪れるのが「ショック期」です。
ショック期は、故人の死に驚いて、茫然としたり感覚が麻痺したりする時期。また大切な人が亡くなった事実を認められず、パニック状態に陥る方もいます。
喪失期
次に「喪失期」がやってきます。喪失期は、故人に会いたい気持ちが募って、悲しんだり落ち込んだりする方が多いです。
故人が亡くなった現実を受け入れはじめたことで、強い感情や症状が現れやすい段階。頭では理解しているのに、故人が生きているかのような感覚を覚えるケースもあります。
閉じこもり期
激しい感情の湧き上がる喪失期が過ぎたら「閉じこもり期」に入ります。閉じこもり期は、故人の死を受け入れた結果、罪悪感や怒り、混乱、絶望などの複雑な感情が生まれてくる時期です。
眠れなくなったり、悪夢を見たり、人に会えなくなって引きこもったりする方もいらっしゃいます。また命日や記念日など、故人と特別な思い出のある日は、感情の揺れ幅が大きくなる「記念日反応」が起きるのも特徴です。
再生期
ショック期、喪失期、閉じこもり期のプロセスを経て「再生期」と呼ばれる回復の段階がやってきます。
グリーフケアに関するよくある質問
グリーフケアの意味は?
グリーフケアとは、簡単に言うと、死別の悲しみを抱える遺族をサポートすること。
「grief(グリーフ)」は、「悲嘆」や「深い悲しみ」を意味する英単語で、とくに愛する人と死別した悲しみを指します。「grief(悲嘆)」を「care(世話)」するグリーフケアは、「遺族ケア」や「悲嘆ケア」とも呼ばれています。
グリーフケアでは何をするの?
- 自分の中にある悲しみを認める
- 故人への気持ちを吐き出す
- お別れセレモニーを開催する
- 故人のお墓や遺品を心の拠り所にする
- グリーフケアの専門家に頼る
- グリーフケアの会合に参加する
- グリーフケアの本を読む
グリーフケアの代表的な方法は、こちらの7つ。ただグリーフケアで何をするか、明確な決まりはないため、ご自身に適した方法を探してみるのがオススメです。
グリーフケアの流れ・プロセスは?
- ショック期
- 喪失期
- 閉じこもり期
- 再生期
グリーフケアは、「ショック期」「喪失期」「閉じこもり期」「再生期」、4段階のプロセスを経て回復へと向かいます。順番が入れ替わったり、各プロセスを行ったり来たりしながら、少しずつ遺族を失った悲しみを癒していく流れです。