日本のお葬式は仏式がほとんどを占めているため、キリスト教の葬式に参列する機会はあまりありません。キリスト教は仏教と考え方が異なるため、キリスト教の葬式に参列するときは事前にマナーを確認しておくのが大切。キリスト教のマナーを調べず、お葬式に参列すると、故人や遺族へ失礼な振る舞いをする恐れがあります。
この記事では、キリスト教の葬式で守るべきマナーや仏式葬儀との違いを紹介します。
目次
キリスト教とは?カトリック・プロテスタントの違い
キリスト教は、仏教・イスラム教と並ぶ世界の三大宗教のひとつで、世界でもっとも信者の多い宗教といわれています。日本でキリスト教を信仰する方は、他国と比較すると少ないですが、全国各地に教会があります。
国内で執り行われる葬儀全体の数を見ると、キリスト教の葬式の割合は1%ほどです。そのため、キリスト教の葬式に参列した経験がない方や、普段からキリスト教に馴染みのない方は多いです。
カトリックとプロテスタントの違い
カトリック | プロテスタント | |
---|---|---|
聖職者の正式な職名 | 司祭(神父は呼び方) | 牧師 |
性別 | 男性のみ | 男性・女性どちらも可 |
聖職者の結婚 | できない | できる |
儀式 | ミサ | 礼拝 |
歌 | 聖歌 | 讃美歌 |
死 | 帰天 | 召天 |
葬式・告別式 | 分けて行う | 一緒に行う |
キリスト教には、カトリックとプロテスタントの二大宗派があります。まずは、2つの宗派の違いを理解しておきましょう。
キリスト教カトリックは、キリスト教最大の宗派であるローマ・カトリックのことです。対してプロテスタントは、16世紀中頃の宗教革命によってキリスト教から分かれる形で誕生した宗派。聖職者は、カトリックでは司祭、プロテスタントでは牧師とよばれます。
カトリックには序列があり、司祭は序列の中の役職の1つ。男性でなければ司祭にはなれず、司祭になると結婚が認められないなど、プロテスタントよりも戒律が厳しい傾向です。プロテスタントは男女関係なく牧師になれて、結婚にも制限がなく比較的自由度が高いといえます。プロテスタントもカトリックも、聖書朗読・祈りを中心に執り行われます。
キリスト教カトリックの葬式の流れ
- 臨終の儀式
- 納棺の儀式
- 通夜の集い
- 葬式
- 告別式
- 出棺式・火葬・埋葬
- 追悼ミサ
カトリックの葬式は、仏教式と同様、納棺・通夜・葬儀という流れで行われます。教会でお葬式をするには、生前からその教会に通い、信者としてミサに参加している方でなければなりません。
また、カトリックでは臨終時から儀式がはじまるなど、仏式とは異なる部分も多くあります。キリスト教カトリックのお葬式の流れを詳しく見ていきましょう。
臨終の儀式
信者が危篤状態になったらすぐに司祭を呼び、「病者の塗油の秘跡」を行います。
まず、枕元に用意された小机に蝋燭、十字架を設置。タオル・綿・教会から持ってきたパンやぶどう酒などの聖体・聖油壺も小机に置きます。
家族も臨終に立ち会って、司祭の儀式を見守りながら信者の最期を看取ります。司祭は儀式を進め、神に信者の罪の赦しを請い、聖書を朗読。信者の額と両掌に精油を塗ります。さらに司祭は、祈祷をしながら信者にパン・ぶどう酒を与える「聖体拝領」を行います。
納棺の儀式
故人が臨終を迎え、臨終の儀式を終えたら納棺の儀式です。
納棺の儀式の前に、ご遺体を清め、着替えを済ませて「死化粧」を施します。そして、故人の手に生前愛用していた十字架・ロザリオを添えて、胸の上で手を組ませます。納棺に定まった形式はありませんが、司祭による祈りや聖歌の斉唱などが行われることもあります。
司祭による祈りの後、遺族で故人を棺に納め、ご遺体の周りに白い生花をたくさん添えます。棺の蓋を閉めたら、黒い布をお棺にかけて納棺の儀式は完了です。
通夜の集い
前夜祭とも呼ばれる「通夜の集い」は、仏教でのお通夜に相当します。カトリック教会で定まった形式はないため、キリスト教では一般的に通夜を行うことはありません。通夜の集いは、日本特有のキリスト教の儀式です。仏教式の葬儀に慣れている方が多い日本では、参列者が集まり、故人に挨拶できる場として設けることがよくあるようです。
通夜の集いでは、司祭をお招きして讃美歌・聖歌の斉唱・聖書の朗読をした後、祈祷します。
葬式(入堂式・ミサ聖祭式・赦祈式)
次は葬式(入堂式・ミサ聖祭式・赦祈式)を執り行います。
葬儀では、参列者が着席したところで、司祭と遺族が入堂し、入堂式が始まります。参列者全員で聖歌の斉唱をしながら、十字架を先頭に司祭が扇動し、聖堂の中央にご遺体の入った棺を移動させます。棺はご遺体の足が祭壇側になるように安置して、司祭と参列者が祈りの言葉を交互に唱えた後、入祭の言葉を司祭が述べます。
続いて行うのは、カトリックで最も重要な「ミサ聖祭式」。「言葉の典礼」と「感謝の典礼」と呼ばれる2つの儀式が執り行われます。司祭が「死者のためのミサの祈り」を唱え、キリストへの感謝と故人の安らかな眠りを祈ります。その後、司祭は着替えのために一旦退場します。
赦祈式は、故人が生前犯した罪に対して神に許しを請い、故人へ祈りを捧げる儀式。祭服姿の司祭が戻って来たら、祈り・聖歌斉唱し、故人に聖水を撒いて罪を清めます。最後に司祭が祈祷し、聖歌斉唱をして終了です。
告別式
カトリックの葬式において、告別式は必須ではありません。ですが日本では、仏教式の葬儀で馴染みがあることから、告別式を開式することが多いです。一方で、葬式以外の儀式を認めない教会もあります。あらかじめ葬式を執り行う教会に相談して、了承を得てください。
告別式では、献花や弔電披露、故人の姿を振り返るスピーチ、故人の紹介、弔辞奉読・遺族代表挨拶を行います。最後に聖歌がオルガンで演奏され、司祭・遺族が故人のために花を並べます。参列者も順番に花を添えて、聖歌を合唱したあと終了です。告別式は、参列者が故人を偲びお別れを伝えるための時間として扱われます。
出棺式・火葬・埋葬
出棺式では、讃美歌・聖歌斉唱、聖書朗読をして祈祷をし、故人の周りに生花を入れます。花を入れたら棺に蓋をして、遺族が棺を霊柩車まで運びます。キリスト教の葬送は土葬埋葬が基本です。ただし、日本では多くの自治体が土葬を禁止しているため、葬式後は火葬場へ移動します。
棺を火葬炉前に運んだ後は聖歌を合唱。司祭による祈祷の後、司祭と参列者で聖句を交唱します。聖水を撒き、香炉を振った後に再び司祭による祈り、聖句交唱をしたら火葬炉へ棺が運ばれます。
仏教では火葬後に「骨上げ」が行われますが、キリスト教では特にルールはありません。2人1組でご遺骨を挟む「橋渡し」もなく、それぞれ箸で拾って骨壷に直接納めます。火葬後そのまま墓地に埋葬する場合もありますが、追悼ミサで埋葬するまで自宅に安置するご家庭が多いようです。
追悼ミサ
故人が亡くなってから3日目、7日目、30日目と、毎年の命日に行う儀式を追悼ミサと言います。追悼ミサは司祭や故人の遺族、親戚を教会や自宅に招いて行います。聖書の朗読や聖歌の合唱の後、参加した方でお茶をしながら故人の思い出を語ります。30日目の追悼ミサでは、仏教でいう「香典返し」が行われます。
キリスト教プロテスタントの葬式の流れ
- 聖餐式
- 納棺式
- 前夜式
- 葬式・告別式
- 出棺式・火葬・埋葬
- 記念日の儀式
キリスト教プロテスタントでは、仏式での通夜式に当たるものとして前夜式を行います。葬儀の流れとしては、葬儀と告別式を明確に区別せず、一連の儀式として行うことが多いようです。
プロテスタントでもカトリックと同様、聖書の朗読と祈祷を中心に葬式が進められます。プロテスタントの葬式が、カトリックとどのような違いがあるのか解説していきます。
聖餐式
キリスト教カトリックと同様、信者が危篤状態になったら牧師を呼びます。危篤状態の信者の前で聖餐式を行い、牧師は聖体を信者の口元に含め、見守る家族とともに祈祷します。
信者が息を引き取ったら、遺族が「死水をとる」儀式を行います。「死水をとる」とは遺族が水を含ませたガーゼや脱脂綿を使って、故人の唇を濡らす儀式のこと。そして、「死化粧」をして、故人が生前に愛用していた服を身につけさせます。
納棺式
ご遺体を白い布で覆い、白い花で飾った後、棺に蓋をして黒い布を被せます。棺の枕元には小机を設置して、十字架と蝋燭、遺影、真っ白な生花を飾って聖書の朗読と祈祷をします。
牧師は納棺の辞を述べて讃美歌の合唱を行い、最後にもう1度祈りを捧げて納棺式は終わりです。
前夜式
前夜式は、仏式葬儀での通夜にあたります。仏教では通夜の後に食事会がありますが、プロテスタントでは行われません。牧師と近親者のみで小さな食事会が開催される場合もあります。
前夜式では、遺族と参列者による讃美歌の合唱・聖書朗読・お祈り・牧師による説法、故人の死を悼む話などが行われ、生花を添えて遺族の挨拶を終えたら終了です。
葬式・告別式
キリスト教プロテスタントでは、葬式と告別式を一緒に行います。オルガンによる演奏の中、牧師・棺・喪主・遺族の順に入場し、一般参列者は起立して迎えます。
その後黙祷を捧げますが、このときにオルガンを演奏するのがプロテスタントの葬儀では一般的なようです。聖水を撒かないのはカトリックと違う点。続いて牧師が祈りを捧げて賛美歌を斉唱し、最後に献花と喪主による挨拶を行い、儀式は終了します。
出棺式・火葬・埋葬
出棺式・火葬・埋葬では、まず聖書の朗読・讃美歌の合唱を行います。出棺の祈祷後、遺族が棺を担いで霊柩車へと運びます。
棺の上には十字架や生花などを飾り、牧師が聖書を朗読。参列者全員で讃美歌を歌い、火葬します。カトリックと同様、火葬後の骨上げにルールはありません。それぞれの箸で骨を拾って骨壷に納めます。お骨上げの後は、仏教で行われるような会席が用意されることが多いです。その後、埋葬して儀式は完了します。
記念日の儀式
プロテスタントでは、逝去から1ヶ月後に親族や友人を集めて、召天記念日の儀式を執り行います。記念日の儀式では、牧師を呼んで説教・聖書朗読・讃美歌合唱をします。記念日の儀式をもって忌明けとなり、遺族が喪に服す期間の終了です。
召天記念日の集会は、故人の葬式を終えてから1年目・3年目・5年目・7年目などに、教会に親戚や友人を集めて執り行われます。
キリスト教の葬式に参列する際に注意すべきマナー
キリスト教の葬儀には、仏式と異なるマナーがいくつかあります。お悔やみの言葉も仏式葬儀と異なり、聖歌・讃美歌や献花・供花ではキリスト教ならではの礼儀作法があります。
キリスト教の葬式に参列する前に必ず確認しておきましょう。
参列時の服装のマナー
参列時の服装は、仏式葬儀と同じく黒の喪服で問題ありません。男性は礼服かダークスーツを着て、白いワイシャツに黒いネクタイを締めます。女性は黒いワンピースやスーツ、アンサンブルなどのブラックフォーマルを着用しましょう。
一般参列者が、和装で参加するのは避けた方が無難。また派手なアクセサリーは避け、メイクも控え目にしておくのが望ましいです。
カトリック教徒の女性がトークハットを被ることがありますが、トークハットはカトリック教における正喪服。一般会葬者が身につけるのはやめましょう。子供がキリスト教の葬式に参列する場合は、制服もしくは黒・紺を基調とした落ち着いた服装を着せてください。
お悔やみの言葉のマナー
キリスト教の葬式に参列するとき、お悔やみの言葉にはとくに注意が必要。キリスト教の「死」は不幸ではないため、「お悔やみ」を述べてはいけません。この点が仏式との大きな違いです。身近な方が亡くなると悲しいのはキリスト教でも同じですが、死を不幸ではなく、永遠の始まりだと捉えます。
そのため、故人の死を悔やむ内容の言葉をかけるのではなく、「安らかな眠りをお祈りいたします」といった言葉が遺族への挨拶として適切です。
»「お悔やみ申し上げます/ご愁傷様です」お悔やみの言葉の意味と使い方
聖歌・讃美歌のマナー
聖歌や讃美歌の合唱は、信者でなければ無理に参加する必要はありません。歌詞カードを受け取ったら、できるだけ声を出して歌うようにしましょう。
献花・供花のマナー
キリスト教の献花・供花は、仏式のご焼香にあたるものです。祭壇に進み、献花を係員から両手で受け取ります。このとき、花が右手側になるように受け取ってください。
次に花を受け取った形のまま、遺影に一礼します。祭壇側が献花の根本になるように時計回りに回転して献花台に置き、遺族と神父・牧師に一礼して席に戻ります。
花を故人に向けて献花することもあります。細かいマナーは、葬式の担当者に指示を仰いでください。
香典のマナーと相場
仏式の葬儀では、参列者が喪主に対して香典を渡しますが、キリスト教に香典はありません。キリスト教のお葬式では、香典の代わりにお花料を渡します。
香典は、カトリックでは「御ミサ料」、プロテスタントでは「御花料」と書いた不祝儀袋を用意します。百合の花や十字架の紋様が描かれた不祝儀袋を使い、表書きの記名には薄墨を使ってください。
香典の相場に関しては仏式の香典とほぼ変わりありません。両親であれば5〜10万円、兄弟や配偶者なら3〜5万円、祖父母・叔父・叔母・従兄弟などなら1〜3万円。知人やご近所の方、ご友人の親なら3千円〜1万円です。
キリスト教の葬式における喪主側のマナーと費用相場
キリスト教信者の家族や親族が亡くなって喪主を務める場合、当然キリスト教の葬式を準備しなければなりません。しかし、自分がキリスト教徒でないとマナーや費用相場もよくわからないでしょう。
ここでは、キリスト教葬儀をする喪主が気をつけるべきマナーと費用相場を解説します。
喪主側のマナー
喪主を務める人は、キリスト教の葬儀でも仏式と変わりません。配偶者や息子など、故人ともっとも縁の深い親族が喪主を務めます。
キリスト教に香典返しの習慣はありませんが、日本では参列者に贈り物をするケースがあります。プロテスタントでは召天記念日の後、カトリックでは追悼ミサの後に贈り物をすることが多いです。
キリスト教の葬式の費用相場
キリスト教式の葬儀にかかる主な費用は、式場使用料やオルガン奏者へ支払う謝礼、生花代、教会への献金などです。ただし、地域や教会などによって異なるので、詳しくは葬儀社に確認しましょう。
キリスト教のお葬式の費用相場は、家族葬の場合だと30〜100万円、規模の大きい葬儀だと200万円以上かかることもあります。
教会に渡す献金・お礼
仏教のお葬式では、読経や戒名のお礼に僧侶へお布施を渡します。お布施は仏教用語なので、キリスト教では宗教者へのお礼を「献金」「ミサ御礼」と呼びます。また、神父や牧師など宗教者にお渡しする場合は「御礼」とするのが一般的です。
お布施の相場は5〜20万円で、葬儀の日程や教会の規模によって異なります。他にも司祭・牧師へのお礼は5〜15万円、オルガン奏者へのお礼は5千円〜2万円が相場です。
キリスト教と仏教のお葬式に対する考え方の違い
キリスト教と仏教では、「死」に対する考え方が異なります。また同じキリスト教でも、カトリックとプロテスタントで違いがあります。キリスト教の葬式に参列する前に違いを理解しておくと安心です。
キリスト教と仏教におけるお葬式の違い、カトリックとプロテスタントにおけるお葬式の違いを見ていきましょう。
キリスト教の死は「祝福」
キリスト教では、死を永遠の命の始まりと捉え、神の元へ召される祝福すべきものと考えます。そのため、キリスト教の葬式は比較的雰囲気が明るいのが特徴。また、お悔やみの言葉を言わないのは、死に対する考え方が根本的に違うからです。
カトリックでは、生前の行いによって、故人の魂の行先が天国か地獄に変わるとされています。葬式では故人の罪を告白して赦しを請い、信者が天国へ行き、永遠の命を得られるよう祈りを捧げます。
一方のプロテスタントは、信者は誰しもが神の元で安らかになれるという考え方です。故人の罪を告白したり、神に許しを請うたりする儀式はありません。プロテスタントの葬式は、神への感謝・遺族の慰めが中心です。
仏教の死は「縁起の悪いもの」
仏教では、死を縁起の悪いものや不幸だと捉えます。そのため、キリスト教のように明るい雰囲気ではなく、暗い雰囲気で葬儀が執り行われるのが通例。遺族には「お悔やみ」の言葉を述べ、故人を偲ぶ姿勢が強いです。
キリスト教の葬式はマナーや考え方を理解して参列しよう
日本ではキリスト教の葬式が少ないため、馴染みがない方が多いでしょう。キリスト教のお葬式に参列することになったら、マナーを事前に確認しておくと安心です。
キリスト教は、死に対する考え方が仏教と異なるので、遺族や故人に失礼な言葉を述べないように注意しなければなりません。カトリックとプロテスタントでも違いがあるため、参列時は故人がどの宗派なのかも確認しておきましょう。
キリスト教の葬式で自分が喪主をする場合、キリスト教葬儀のルールを熟知している葬儀社に依頼するのが大切。仏式葬儀との違いや、カトリック・プロテスタントのマナーの違いなどを理解し、気持ちよく故人を送り出せる準備をしてください。