仏教は多くの宗派に分かれており、宗派によって葬儀の特徴も異なります。
曹洞宗の葬儀は、故人を得度させ、仏弟子にした後に送り出すという葬儀です。その荘厳な儀式は、今の日本のお葬式のもとになったともいわれています。ここでは、曹洞宗の葬儀の特徴についてご紹介します。
曹洞宗とは
曹洞宗は、禅宗五家と称される臨済宗、潙仰宗、雲門宗、曹洞宗、法眼宗のうちのひとつです。
今から800年ほど前に道元禅師(どうげんぜんじ)が中国の正伝の仏法を日本に伝え、瑩山禅師(けいざんぜんじ)の手によって日本全国に広められました。
これが、曹洞宗の礎となっています。
曹洞宗の基礎を築いた道元と瑩山は、曹洞宗において「両祖」とされています。そして、本尊である「釈迦牟尼仏(しゃかむにぶつ)」と両祖を合わせて「一仏両祖」として仰いでいます。
大本山は福井県吉田郡永平寺町にある永平寺(えいへいじ)と神奈川県横浜市鶴見区にある總持寺(そうじじ)の2つで、曹洞宗寺院の信仰の根本となっています。かつては岩手県の正法寺(しょうぼうじ)、熊本県の大慈寺(だいじじ)も曹洞宗の本山とされていましたが、1615年に永平寺、總持寺のみが大本山として定められました。
曹洞宗の教えでは坐禅を行うことが重視されており、修行においても坐禅が中心に据えられています。これは、お釈迦様が坐禅の修行に精進し、その結果悟りを開いたことに由来しています。修行では坐ることによって心身を安定させ、身、心、息の調和をはかります。
曹洞宗の主な経典としては、「修証義(しゅしょうぎ)」「摩訶般若波羅蜜多心経(まかはんにゃはらみったしんぎょう)」「妙法蓮華経観世音菩薩普門品(みょうほうれんげきょうかんぜおんぼさつふもんぼん)」「妙法蓮華経如来寿量品(みょうほうれんげきょうにょらいじゅりょうほん)」「舎利礼文(しゃりらいもん)」などがあります。
これらの書物は「正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)」や「伝光録(でんこうろく)」「永平広録(えいへいこうろく)」などが基となっています。
曹洞宗は、現在日本において約800万人の信徒を持つとされています。
日本では有数の宗教団体で、約1万5,000の曹洞宗の寺院が日本全国にあります。
曹洞宗の葬儀の特徴
曹洞宗の考え方は、「葬儀を行うことで故人が仏の弟子になる」というものです。そのため、葬儀の前半では故人を仏の弟子にするための「授戒の儀式」が行われます。葬儀の後半では「引導の儀式」を行うことで故人を仏の世界へと導いていきます。
曹洞宗の葬儀の大きな特徴は「鼓鈸三通(くはつさんつう)」という儀式が行われることです。
三人の僧侶がシンバルのような形をした「鐃祓(にょうはち)」や手で持てる鳴り物の「引磐(いんきん)」、そして太鼓を使い、チン・ドン・ジャランと音を鳴らします。
このように、曹洞宗の葬儀では故人が仏の世界へと導かれていくことを盛大に表現します。この荘厳な儀式が、大切な人を失った遺族たちの悲しみを優しく包んでくれます。
曹洞宗の葬儀の流れ・式次第
曹洞宗の葬儀における一般的な式次第は以下のようになります。
導師入場
導師および式衆が葬儀式場に入場します。
剃髪(ていはつ)
故人を仏弟子にするための儀式です。
導師が剃刀を持ち、出家儀式と同じ「剃髪の偈」を唱えます。
懺悔文(さんげもん)
生涯で犯した罪を反省することで、成仏することをお願いします。
洒水(しゃすい)
清き水を手向けます。
三帰戒文(さんきかいもん)
仏の教えを守り、修行者に帰依することを誓います。
三聚浄戒(さんじゅうじょうかい)、十重禁戒(じゅうじゅうきんかい)
導師が法性水を用意し、法性水を位牌や自らの頭上に注ぐ酒水灌頂(しゅすいかんじょう)を行います。
血脈相承(けちみゃくそうじょう)
血脈とは、お釈迦様から故人までの系図が記されたものです。血脈を香で焙り、柩の上あるいは祭壇に安置します。
入龕諷経(にゅうがんふぎん)
「大悲心陀羅尼(だいひしんだらに)」と回向文(えこうもん)を唱えます。本来は棺に納める儀式ですが、実際の葬儀ではすでに納棺された状態で行われます。
なお、参列者はこの間に焼香を行います。
龕前念誦(がんぜんねんじゅ)
「十仏名(じゅうぶつみょう)」と回向文を唱えます。
挙龕念誦(こがんねんじゅ)
邪気を払うために大宝楼閣陀羅尼(だいほうろうかくだらに)を唱え、鳴り物の儀式である鼓鈸三通(くはつさんつう)を行います。
引導
導師は線香またはたいまつを模した法炬により右回り、左回りに円を描き、故人を仏の世界に導きます。その後、払子(ほっす)をふるい迷いと邪気を払います。
山頭念誦(さんとうねんじゅ)
仏弟子となった故人の仏性の覚醒を助けてもらえるように祈願し、読経します。
退場
導師および式衆が葬儀式場から退場します。
曹洞宗葬儀のお布施の相場
お布施とは、葬儀や告別式のときに僧侶渡すお礼のことです。
読経等への対価という意味ではなく、本尊へお供えをするという考え方であるため、読経料などという言葉は使いません。お布施はあくまでも気持ちであるため、決まった金額が定められているわけではありません。
そのため金額にはばらつきがありますが、15万~50万円が相場といわれています。お寺の考え方や地域、お寺との日頃の付き合いなどによって、異なるためです。大切なのは、自分が無理なく支払える程度の金額をお礼の気持ちを込めてお渡しすることです。
心配な場合は、僧侶に直接お布施の目安について尋ねてみるのもひとつの方法です。「他の方々はどのくらいされていますか」と聞いてみるとよいでしょう。
また葬儀社にお寺を紹介してもらった場合は、そちらで参考となる金額を尋ねてみてください。
曹洞宗の葬儀の香典
香典とは、現金を不祝儀用の水引を結んだ袋に包んだもののことです。
古くは線香や抹香、花などが故人の霊前に供えられましたが、現在は香典がその代わりとなっています。なお、現金をお供えするのは「葬儀で急な出費があり、遺族が大変だから」という相互扶助の意味合いもあります。
香典として包む金額の相場は、故人との関係性や付き合いの深さ、参列者の年齢などによって異なります。
曹洞宗の葬儀のお作法、マナー
葬儀のお作法やマナーは、宗派によって異なります。
ここでは、曹洞宗の葬儀における数珠の使い方および焼香の仕方についてご説明します。
数珠の使い方
数珠は大きく分けて「本式数珠」と「略式数珠」の2つがあります。本式数珠はそれぞれの宗教・宗派の正式な数珠であるのに対し、略式数珠はどの宗派でも使用できます。
曹洞宗ではお経をあげる機会が少ないため檀家であっても本式数珠を持っている人は多くなく、略式数珠を使用するのが一般的です。
合掌するときには、数珠を左手にかけ、右手は添えるようにして合わせます。
焼香の仕方
焼香に対する考え方や作法は、宗派によって異なります。
曹洞宗における焼香の一般的な手順についてご紹介します。
1. 祭壇に進んだら遺族に一礼、参列者に一礼します。
2. 仏前で仏像やお位牌をみてから合掌し、一礼します。
3. 右手の親指、人差し指、中指でお香を1つまみし、右手の下に左手を添えながら額におします。
4. 香を静かに炭の上にくべます。この1回目にたく香を「主香」といいます。
5. 2回目は、1回目よりも少量のお香をつまみ、額におさずに香炉に投じます。この2回目の香は「従香」と呼ばれ、時間がかかると予想される場合には省略されることもあります。
6. もう一度合掌してから後ろに二、三歩下がり、遺族に一礼してから席に戻ります。
なお、一般的に行われる焼香には「立礼焼香(りつれいしょうこう)」「座礼焼香(ざれいしょうこう)」「回し焼香」の3通りがあります。
立礼焼香は椅子席が設けられた式場で行われる方法で、焼香代の手前まで進んでお焼香します。
座礼焼香は立礼焼香とほぼ変わりませんが、立ち上がらずに膝で焼香台の前まで進みます。
回し焼香は会場に十分なスペースがない場合などに用いられる方法です。参列者が焼香台のところまで行くのではなく、焼香炉が順番に回ってきます。焼香を終えたら、隣に座っている人に焼香炉を回します。
曹洞宗の葬儀を理解して参列しよう
一言で葬儀といっても、宗旨宗派によって葬儀の特徴や作法、マナーなどはそれぞれ異なります。葬儀は急に執り行われるものです。細かいところまですべてを把握するのは難しいかもしれません。
その宗派での葬儀について少しでも知っておくことで、故人をきちんと送り出すという意味においても、何かが変わるかもしれません。
なお、同じ宗派でも地域やお寺によって違いがある場合があります。不安がある場合は、葬儀の担当者などに確認しましょう。